「ねえ〜〜、そんなこと言わずにさあ…も一度行こうよ。ね?」 
 アルベドグリーンの瞳に熱っぽい光をたたえ、リュックはティーダににじり寄った。



CACTUS☆GREEN
×××××××××××××××××××××


 
「やだ。」
 しゃがみこんだまま、くるりと体ごとそっぽを向く彼。その広く逞しい背中に金髪の少女はしなだれかかった。
「こんなにかわいいリュックさんが、一生懸命お願いしてるのにィ?」
「んあっ!?ひっつくなって!」
 まとわりつく細い両腕をひっぺがして、ティーダは飛びすさる。ふてくされた顔が、もう一度あさっての方向を仰いだ。
「だってぇ、ギル2倍だよ?ユウナに楽させてあげたいでしょ?」
いかにもヘソを曲げてますといった風の少年に対し、リュックは戦法を切り替えた。

 七曜の武器のうちの一つ。ゴッドハンド。その神秘の力を呼び戻すためには、ある特別なアイテムが必要なのだという。それを手に入れるため、一行はここビーカネルの砂漠に立ち、ようやく謎解きを始めたのだった、が。

「んもう!エースだったらビシッと決めようよ!」
 鼻先に人差し指を突きつけられて一瞬たじろいだものの、エースと称された若者はわめき返した。
「だぁーかーらって、何でオレがサボテンダーと一騎打ちなんスか!??」
 一騎打ちといえば聞こえはいいが、その中身は、かの「はりはりまんぼん」だ。メンバーの中で一番の素早さを誇る彼は、今回それがいわば仇となってサボテンダーと真剣勝負を繰り広げる羽目に陥ってしまったのだ。言いたい放題のギャラリーが無責任な応援を繰り広げる中、孤独な戦いに嫌気がさしたとしても、仕方のないことだろう。
 怒りさえ浮かべた蒼い瞳にねめつけられて、一同は顔を見合わせた。何故ティーダが抜擢されたかといえば…
「他の誰よりも、一番マシな結果になりそうだからだ。」
 アーロンにしれっと返され、彼はがくりと肩を落とした。

「チイだってやられっぱなしじゃ悔しいでしょ?」
 たたみかけられて言葉に詰まりながらも、まだ渋面をしている少年に、横合いからユウナが微笑んだ。
「キミで駄目だったら、他の誰にもできないよ。」
 花の笑顔に押し切られ、彼はいやいやながらも再び砂漠を走る覚悟を決めた。
「…次こそは絶対勝利をモノにするッス!」 

 少し離れた所から若者達の様子を眺めながら、ルールーはフッと笑った。
「意識してるのかどうかは知らないけど、ユウナ、意外と操縦が巧いわね。」



 灼熱の太陽は中空にぎらぎらと輝き、身を焦がすばかりの強烈な日差しが容赦なく突き刺さる。生物の存在を一切許さないかのような不毛の地を、一行はサボテンダーとの戦いを求めてさまよい続ける。
「今度会ったら、みじん切りどころか、ピクルスにしてパンにはさんで喰ってやる…」
 熱砂からの照り返しもさることながら、ティーダの脳みそは沸騰直前だった。
 傍目には失笑を誘う光景でも、勝負は勝負。闘争本能に火のついた彼を止められるものではなかった。暑さと疲れに音をあげる外野の言葉に耳も貸さず、少年は次なる敵を目指して砂を蹴った。
 気の遠くなるほどの酷暑の中、サボテンダーとのある意味すさまじい勝負&バトルは続く。彼の気力を支えているのは、もはや意地だけだった。


 ある時は惜敗に地団駄を踏み、またある時には美しいサボテン色のスフィアを手に入れた
ティーダは、とうとう9個目のスフィアを石碑にはめ込むことに成功した。
 岩の表面が妖しく光り、白く文字が浮かび上がる。
「…戦士達は、もう戻らないってさ……。」
 リュックがしみじみ読み上げると、何とな〜く気まずい雰囲気が流れた。
 沈黙に耐えかねたワッカなど、
「何か、こう、取り返しのつかねえことした気分になっちまうな。本当にこれでよかったんだろうか…?」
 と、優柔不断なことを言い出す始末だ。
「あーっ!さんざ人のケツ叩いといて、そりゃないッスよ!?」
 最後は思い切り自主的だったことは棚に上げて、金髪の少年が気色ばむ。二人の不毛な会話をガードの長が打ち切った。
「今更なかったことにもできんだろう。とにかく行くぞ。」
 強引な気もするが、正論だ。皆は一様に頷いてアーロンに従った。

 砂漠の一角に吹き荒れていた砂嵐がやみ、ティーダ達は断崖に囲まれた秘境へと足を踏み入れた。雲ひとつない空に向かって奇怪な形の岩が伸び、サボテンがにょきにょきと生えている。
「あ!宝箱見つけた〜〜!!」
 スキップするような足取りでリュックが駆け寄る。その瞬間モンスターの気配を感じ、一同の間に緊張が走った。こんな所でエンカウントする敵といえば…
「やっぱり、サボテンダーなのね。」
 ルールーが、艶めいた唇に苦笑をのせてつぶやいた。こちらの攻撃はことごとくかわされ、まるでおちょくられているような錯覚に陥るし、針攻撃は手痛いどころの騒ぎではない。何とも嫌な相手だけれども、それでいて対峙するたびつい笑ってしまうのも事実だった。

「★仝〇ー!」
 サボテンダーが宙返りしながら叫んだ刹那、
「おわっ!?」
 背後から緑の弾丸が飛来した。ワッカの耳元をかすめて一同の前に着地すると、サボテンダーをかばうように立ちはだかる。
「サボテンダーが2体…?」
 呆気にとられるみんなを尻目に、サボテンダー達はお互いを見つめあい、二言、三言を交わした後、固く抱き合った。
「●℃¥▽@〜〜★§☆$!!」
 目の前の信じられない光景に、言葉を失う人間達。助けに来たサボテンダーは砂煙を蹴立てると、もう一方の手を取り、あっという間に逃走した。

「珍しいもん見ちゃったねー。」
 口をぽかんと開けて見送っていたリュックは、ようやく我に返った。
「あのサボテンダー達って、恋人同士だったのかな…?」
 隣に並んだユウナの疑問に、ティーダは首をひねる。
「というか、サボテンダーにオス、メスの区別ってあるのか?」
 答えを知る者は、一同の中には存在しなかった。
 


 召喚士達の帰還後、飛空挺はマカラーニャに向けて発進した。
 フライト中のコクピットで、アルベド族の長シドはリュックの質問にドラ声を張り上げた。
「人工砂嵐の発生装置だア!?そりゃ、あるにはあるが、そんなもん何に使おうってんだ?」
「ん〜〜。ちょっとね。」
 長の娘とその仲間は曖昧な笑顔を作った。まさか自分達が、サボテンダーの隠れ里を踏み荒らした罪滅ぼしに使う…とは口が裂けても言えない。
 かくなる上は里で得た宝の謎を解き明かし、スピラに一日も早い安息を…と、少々問題をすりかえて固い決意を交わす一同の姿がそこにあった。

 −FIN−

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