「リュック。」
 ………五月蝿い。
「おい、聞こえてんのか?もしも〜し!」
 …黙っててよ。手元が狂うじゃない。
「リュックリュック、リューック!」
 …ネコじゃないんだから、気安く連発するなってば。





SYSTEM R;






「ちょっとぉ!気安く呼ばないでくれるかなぁ。」
 イライラ気分も頂点に、思わず精密ドライバーを握り締めたまま怒鳴り返す。

「おーこわ。」
 目の前でこれ見よがしに肩をすくめてるのは、マキナ派リーダーのギップル。逆立てた金髪に眼帯という格好だけど、見た目ほどおっかないヤツじゃない。
 鮮やかなグリーンに螺旋模様の虹彩は、あたしと同じアルベドの証。

「ついこの間まで、名前で呼べってうるさかったくせに。」
 ちょっと面食らったみたいにして黙ってたのが、すぐ余裕ぶちかました、いつもの態度に戻る。

 なんかなんか、ものすごく気に入らないッ!
 

 楽勝だって思ってた回路の調整に、あたしはめちゃくちゃ手こずってた。シンラから預かってきた新型通信スフィア、ジョゼに設置してみたら受信側のチューニングがどうも悪いんだ。ちょっと開けて直せるものなら…って思ったんだけど、かえすがえすも甘かった。
 


「乙女心はね!難しいのッ!」
「ふーん。」
 何さ、腕なんか組んじゃって。大体そのマキナ値踏みするみたいな目つき。気に入らない!



「どれ、貸してみろよ。」
 急に顔近づけないでよ。心臓に悪いじゃない。
「ふーん、複雑なんだな。」
 片っぽしかない目。意外と睫毛長いんだ。
「…この基板ごと取り替えないとダメかも。飛空挺に連絡とってみるよ。」
 あたしが指差した場所をちょこちょことつついた後、ギップルは顎に手を当ててふんふんと頷いた。そうしておいてドライバーを逆手に握るや…
 ゴンゴンっと叩いて押し込んだ!キシキシッという嫌な擬音とともに、部品は1ミリほど奥へめり込んだ。
 なーんて乱暴な!デリケートな回路だっていうのに。シンラが突貫工事で頑張った最高傑作なのに。憤慨したあたしが怒りの鉄槌を目の前の慮外者にくれてやろうとしたとき、
「あ、あれ?」
 こんなのって、あり?ごく微かな駆動音とともにスフィアは鮮明な像を結んだ。
 今あたしは、さぞかし間抜けな顔をしているに違いない。それでもまじまじと見つめ返さずにはいられなかった。
 目が合った瞬間、ギップルは勝ち誇ったみたいな笑顔で親指を立てて見せた。
「時には力技も有効ってか。」
「うわ、サイテー。」
 自分の演技力のありったけをつぎ込んで、思いっきり冷ややかな目で睨みつけてやったつもりなのに。何爽やかな顔して笑ってるのさ。もう。





 でも、何が一番サイテーかっていえば。
 こいつの何気ない笑顔につられて地獄から天国へ直行しちゃってるくせに、ちっとも素直になれない自分の恋心かもしれない。



(ふんだ。たまには…乙女心にも力技使ってみたらどうなのさ。)









 -FIN-

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御用とお急ぎでなければ、最後の部分を反転なぞしていただけると
リュックの本音が隠されていたりするやも知れません(笑)
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