Sunny day,Sunny smile



 今朝の空は、文句のつけようもない晴天。
 こんな完璧な洗濯日和を見過ごすのはもったいないとばかりに、ユウナは張り切ってリネン類の手入れにかかった。
 
 すすぎの仕上げに、マージョラムの精油を1滴たらす。そして暑がりな癖にくっつきたがりの恋人のためにハッカをもう1滴。
 ほんとうは今香りをつけても日光に当てれば飛んでしまう。けれどもユウナは、爽快な香りがふわりと立ち上るこの瞬間が大好きで、今夜の眠りをより上質なものにしてくれるおまじないがわりに、いつもこうしている。
 


 空の青さは、雨季の真っ盛りとは思えないほどだ。けれども気まぐれな雨雲に泣かされないためには、油断は禁物だった。強い日差しが照りさえすれば乾くのも早いので、ユウナは昼ごはんの片づけを済ませて午後一番に洗濯物を取り入れることにした。
 白く輝く太陽と、気持ちよさそうに揺れる色様々な洗濯物の群れ。彼女はまばゆいコントラストに目を細めた。
 夢みたいに平穏な日常。
 小さな幸福が積み重なる中で、それでも旅をしていた頃の記憶は薄れることがない。辛く、不遇な時もあったけれど、決して不幸ではなかった旅路。
 もっとも、そんな風に思えるのは…。
  
「手伝おっか?」
 ティーダが家の中からひょいと顔を出した。答えを待たずに、もう向こうの端からタオルを外しにかかっている。
「ありがとう。でも時間は大丈夫?」
 自分も負けじと洗濯物をロープから外しながら、ユウナは言った。家事を手伝ってくれるのは嬉しいけれども、もし練習に遅刻しては大変だ。
「平気平気、午後は自主練だから」
「それ、まさかキミだけ自主的にお休み…って意味じゃないよね?」
 彼はおしなべて練習熱心だが、サボりの前科が皆無という訳でもない。釘をさす彼女に、彼は大げさに嘆くそぶりを見せ、信用ないッスねぇと笑った。
「どうせルールー通じて筒抜けなんだから、すぐバレる嘘ついても仕方ないだろ。シーズンオフだから、こんなもんだって」
 オフに入り島に戻って来ると、シーズン中の忙しさが嘘のように、時間の流れが緩やかになる。もう何回か繰り返したはずのサイクルなのに、スピードの変化にまだ少し戸惑っているのかもしれない。

 綿雲の動きにあわせて、のんびりした時間が過ぎていく。
 競うように取り込まれた洗濯物は、ほどなく籠をいっぱいにした。
 
 手に取ったシーツに、ユウナはそっと頬を当てた。
 お日様の光をたっぷり吸い込んだタオル地は、ふわふわに乾いていて、いい匂いがした。



 自ら手伝いを買って出てくれたティーダは、寝室でクッションにカバーをかける作業にかかった。神妙な面持ちで色鮮やかなニット生地の角部分をつまんで引っ張ったあと、彼は両手で挟んだクッションをぽんぽんと叩いた。
 その傍らで、ユウナはシーツの端を掴んでふわりとベッドに広げた。そして四隅をマットの下に手早く折り込んでいく。
 少々小さな波が立っているのは、伸びやすいタオル地ということでご愛嬌。お気に入りの掛け布も整えて、ユウナはすっかりメイキングを終えたベッドを満足げに見渡した。青いタオル地の海は、とても気持ちよさそうで、誘惑に耐え切れそうにない。
 彼はまだ、二つ目のクッションにカバーをかけるべく健闘している。
「ふかふかベッドに、よぉいドン!」
 ユウナが叫んで、室内履きを脱ぎ捨てるが早いかベッドに跳び込んだ。
「あ〜〜っ、抜け駆けずっこい!!!」
 ティーダも抗議の雄たけびを上げて、クッションを放り投げると同時にダイブした。倒れこんだ彼女の後頭部に、クッションが降ってくる。と思う間もなく後ろから抱きすくめられて息が出来なくなる。
 共に過ごす大切な人がいるから、夢みたいに平穏な日常を何のてらいもなく享受できる。過去を悔やむことも封じ込めることもなく、自分自身を好きでいられる。
 苦しくて、可笑しくて楽しくて、幸せで。気づけば大声で笑っていた。
 洗い立てのシーツの上をもつれあって転がりながら、二人はひとしきり太陽の恩恵を分け合った。

-FIN-

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夏田さま宅weddingrunの8周年記念絵を拝見して、浮かび上がってきたネタ。勝手に懸想してすみません。しかももう秋ですがな。一人時間差攻撃が得意技です。

何でこんなに幸せなんだちくしょう好きだティユウ!!
(09/0/920 ちょっぴり改稿)

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