FOR YOU


 木枯らしは、嫌いじゃない。
 寒いのは正直苦手だけど、風の冷たさにかこつけて、隣を歩く恋人の肩をおおっぴらに抱き寄せられるから。
 恥ずかしがり屋の彼女は、ちょっと顔を赤くして睨んできたりもするけど、そんな顔も可愛いんだよな。

…なんて、のん気に構えてる場合じゃないんだって。
 下げた紙袋が、重くはないんだけど、やたらとかさばって歩きにくい。ワッカから頼まれて、ユウナと一緒に買ってきたのはイナミへのオモチャ。他にもラッピングの材料とか、細々した雑貨とか、ユウナに言われるまま何軒も回って、色々買いこんできた。ルカでしか買えないものがたくさんあって、ルールーやワッカ、島のみんなにも贈りたいんだってさ。
 本当はオレ、人の世話なんて焼いてる場合じゃないんだ。
 元は北部のお祭りがルーツだっていう”聖夜”は、大切な人と贈り物をし合う習慣に形が変わって、今じゃスピラ中で年末の一大イベントになってる。
 聖夜の近づいたルカは、ショーウィンドーというショーウインドーが特別華やかになる。街中が緑の葉と真っ赤なリボンで綺麗に飾られて、ほうきみたいな街路樹は夜になると光が灯されて、星を枝に散りばめたみたいだ。
 どっちを向いてもウキウキした雰囲気がいっぱいの中を、自慢の彼女と一緒に歩く嬉しさの裏で、オレは内心ちょっぴり焦ってた。
 ユウナとプレゼントを贈り合うようになって三年目。今年は何をあげようか、まだ決まってないんだ。当日まで、もうあと一週間ぐらいしか無いってのに。

 何が欲しい?って聞くと、何でも嬉しいよ。って答えるんだ。
 お人好しで、欲がまるでなくて、他の人にも、オレにだって、気遣いを絶対に欠かさないユウナ。
 例えば、何を贈ったって、多分…いや、間違いなく喜んでくれる。
 でも、それじゃダメなんだ。
 本気で驚かせたい。目を見張るようなプレゼントを贈りたい。そう考えてるうちに、アクセサリーも服も、何だかありきたりに思えてきちゃって。
 ここまできたらもう、半分意地みたいになってさ。
 今日だってユウナの買い物に付き合いながら、せめて何かヒントになるものがあればって、こっそり目を光らせてたんだけど。あれこれ無意味に悩んでいるうちに、もう、うちが目の前。

 あ〜あ。





 手編みのドイリーを敷いた上に、ちょこんと飾られた鉢植えのツリー。買ってきたばかりのオーナメント、色とりどりのリボン、艶紙で作られた、目に鮮やかなラッピングペーパーや袋。
 ユウナの目利きで厳選された品が、あっという間にリビングのテーブルを占拠した。
 オモチャ箱をひっくり返したように賑やかな色使いが、見てるだけでも楽しい気分にさせてくれる。
 雑貨を籠に詰めるのに忙しい彼女に、オレは思い切って尋ねてみた。
「ユウナは、プレゼントに何が欲しい?」
 反則は承知だけど、やっぱりユウナの喜ぶものがいいしさ。金色のワイヤーでできた星飾りをテーブルに戻す間、ユウナはちょっと考えてたみたいだったけど、こっちを向いてにっこり笑った。
「キミのくれるものなら、何でも嬉しいよ。」
 ほら、やっぱり思ったとおりの答え。でも聞くたびに、ユウナの声は、心の深いところへ落ちていって、澄んだ音を響かせる。身体の内側いっぱいに共鳴する。
「ユウナって、欲が無いんだな。」
 そんなことないよ?って、小首を傾げてる。そんなことあるって。お陰でこっちは随分困ってるんだからな。
「キミと一緒にいられれば、もう十分過ぎるくらいに幸せだから。」
 可愛い仕草に見とれて、多分相当なアホ面してるだろう顔を慌てて引き締めた。それってすっごく嬉しいけど、じゃあ、何を贈ればいいかっていう悩みは結局振り出し。
 ああもう、考えるのやめた!
「じゃあ、プレゼントは、ずばりオレで…」
 冗談半分、開き直り半分で、白い指から真っ赤なリボンを取り上げて、自分の首にひと巻きした。右と左の両方を輪っかにして、くるりと結わえる。
「…どうッスか?」
 蒼と碧の、水に浸した宝石みたいに綺麗な目が、真ん丸くなってこっちを見つめてる。予定とはちょっと違うけど、驚かせることには成功したかも。
 ――なんて余裕は、悪戯っぽく微笑んだユウナの一言で、あっけなく吹っ飛んだ。

「一生、返さないっすよ?」

 クリティカルヒット。
「望むところッス。」
 不覚にも鼻声になりそうだったのを悟られないようにするには、そんな短い言葉が、やっとだった。
 首の前で作った蝶結びに、細い指が伸びてそっと触れた。
「嬉しいよ。」
 何のてらいもなく素直な気持ちを口にするユウナのことを、本当にもう、どうしようもなく大好きでたまらない。
 少しくすぐったくて笑い出したいような、それよりいっそ泣き出してしまいたいような、色んな気持ちがごちゃまぜになって一気に喉までせり上がってくる。
 ときたまこんな風に、苦しくてしょうがない。こんなに好きなんだって、ユウナにイヤっていうほど思い知らせてやりたいのに。言い表しようの無い混沌とした感情は、いつもひどく単純な行動に集約されてしまう。
 例え100万回愛してるって口にしても、足りない。ユウナとの間にあるものを全部取っ払って直接体温を分け合っても、まだ足りない。
 けど、そんなもどかしさからオレを救ってくれるのも、やっぱりユウナなんだ。

「離さないからな。」
「離さないでね。」

 世界で一番大切な人の微笑が、気持ちに約束という名の翼をくれる。
 なんて応えようかと考えるより先に体が動いて、ユウナを捕まえて抱きしめてた。髪からほのかに漂う花の香りで、胸がいっぱいになる。


 リボンを結んだとっておきをかけて、誓う。
 オレの未来は、オレとユウナの、二人のものだから。












[FIN]









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ユウナ好き好きな気持ちが先走って、だいぶ痛い感じになりました。おーいちゃんと前見えてるかエース君?みたいな。
目指せ砂吐きだったんですが…いや、言い訳はすまい。



EBチャットにて盛り上がったネタを元にしました。ご同席されていた方の素敵コメントあってのお話です。ってか、これはむしろ共同制作といえるものです。ありがたやありがたや。という訳で、ご一緒した皆様に限り、フリー(持ち帰り&転載自由)とさせていただきます。
首リボンティーダのネタは、楽描きHOUSEのnomさんがバトンと一緒に受け取ってくださっていて、先様の日記では数倍素敵で大人でウフフなティユウワールドが展開されておりますので、合わせてどうぞ♪(後日うちにもお目見えの予定です。五周年記念にいただいたのです。ブラボー!(←?)


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