Honey Moon

 何とかベベルを脱出し、おっそろしい死人の花婿サマと文字通り死闘を繰り広げ、やっとのことで勝利を手にしたあたし達に与えられたのは反逆者の烙印だった。
 寺院の敵。エボンへの反逆者。まあ、アルベドのあたしなんかはもう、そんな風に言われるのって結構慣れっこになっちゃってるトコあるんだけど、ユウナはさすがに落ち込んでた。明るく振舞おうとしてるのが、かえって痛々しくて見てらんなかった。
 大体ヒドイよね。スピラのために体張って、命かけてんのに…勝手な都合で手のひら返しちゃってさ。陰険!横暴!やり口汚いんだから、全く。
 人目を避けるようにしてここ、マカラーニャの森までやっとの思いでたどり着いた。逃げて、逃げて、僧兵に見つかっても反撃するわけにはいかなくて。身も心もボロボロになって。とにかく逃げてここまで来た。

 見上げると、端っこの尖った、蜂蜜色の月。銀の砂を敷き詰めたみたいな星空にほんわりと浮かんでいる。
 あたしのいる木の上からは、みんなそれぞれ焚き火を囲んで休む姿が見える。
 …いいこと発見しちゃった。この間野営したときに比べて、ティーダとユウナの距離ってすごく縮まってるんだなあって。
 ほら、ユウナが小さく身じろぎする。顔を向ける先には、ティーダがいるんだ。ティーダがユウナに視線を返す気配がする。寝ちゃってるみんなには内緒のつもりだろうけど、このリュック様にはバレバレだよ。

 この森にたどり着いてすぐ、ユウナは一人になりたいって森の奥に消えた。お約束のようにキマリがついて行ったけど、ティーダは随分心配して冬眠前の狐みたいにそわそわしてたっけ。
「お前の出番ではないのか。」
 ってアーロンにお墨付きもらって、あいつはユウナんところへ飛んでった。おっちゃん何だかんだ言って、しっかり見てるよねえ。えらいぞ。
 しばらくしてキマリが戻ってきたんで、あたし二人のこと聞いたんだけどさ、黙って首を振るばっかりでちっとも教えてくれなかった。何か安心したような、寂しそうにも見える眼をして。キマリのあんな顔見たのは初めてだったような気がする。

 多分二人はずっと一緒にいたんだろうけど、一足先にティーダが広場に現れた。
「どうだった?」
 あたしが聞いたら
「ユウナの決めたことだからな。」
 ため息をかみ殺すような声で、それだけ言った。
 ユウナは、その後すぐ入ってきた。まだちょっと元気なかったけど、その顔から迷いはもう消えていた。背筋をしゃんと伸ばしたその姿、きれいだ…って思った。
「夜が明けたら、出発します。」
 信じていたものに裏切られても、それでも彼女はこのスピラを救おうとしている。
 やっぱり旅、続けるんだ。

 本当は、あの二人が良い仲になってさ。ユウナが普通の女の子みたく恋に目覚めて、旅をあきらめてくれたら…なんてことも考えたりしたんだけどさ。それってやっぱり無理っぽいみたい。
 というか、逆にユウナらしくないかな…って。
 一緒に旅をしてて思ったんだけどさ。やっぱりシンを倒さない限り、どうしようもないんだ。召喚士の犠牲の上に成り立つ平穏なんておかしいけど、召喚士さらって閉じ込めても解決にはならないもん。
 シンをやっつけて、ユウナも助かる方法…うーん、思いつかない。ティーダは親父にユウナのこと死なせないって豪語してたけど、何か名案があるのかなあ。
 あいつの事だから、多分勝算だとかそういうの全部すっとばして、思いつくまま叫んだんだろなあ。
 …ふぅ。

 でもさ、あいつってば調子いいトコもあるけどなかなか骨のある奴だよね。ユウナのこと真剣だし、任せても大丈夫って感じ。
 そういえばあの二人の仲って一体どこまでいってんのかな。
 …ってやだな。あたしったら、なあに下世話な詮索してんだろ。
 あたし達の前では、あんまりいちゃいちゃしたりはしないんだけど、お互い寄りかかったりしないで、ちゃんとそれぞれの足で立っているんだけど。
 ふとした瞬間に微笑み交わしてるとこを目撃しちゃったりすると、何だか無性に応援したくなるような、そんな二人。

 いつか、ルールーと話したときのことを思い出した。
「あたしも素敵な恋がしたいなあ。」
 夢見るあたしを彼女は一笑に付した。それから深い目の色をしてこう言ったんだ。
「恋は、するものではなくて落ちるものよ。」
 うーん。さすがはお姉サマ。
 きっとユウナは、自分が恋をするのを自分で戒めていたと思う。だって誰かと心を通わせれば通わせるほど、その先に待つ別れはきっと辛いだろうから。
 でも、そんな城壁を、ティーダは易々と飛び越えちゃったんだね。持ち前のフットワークでさ。

 あたしも素敵な恋に落ちたいなあ。
 …やだ。何でおっちゃんの顔なんか思い出してんだろ。オジサンなんか興味ないんだもんねー。
 あたしの理想は、すらりと背が高くて、頭良くて、優しくてぇ…えっと、でもチャラチャラしたのは嫌だな。風格があってどんと構えてないと。それから弱いのは問題外!腕っぷしが強くて頼りがいのある大人な…
 ………………。
 あーもうやめやめ!もう寝ようっと!!

 木の幹に身体を預ければ、ガラスみたいな葉の向こうに笑ってる月。
 蜂蜜色した甘〜い雫が今にもしたたり落ちてきそう。
 恋人達の睦言を、あの月だけが見知っているのかもね。

     -FIN-

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