埃っぽい風が、耳元で唸りをあげた。
錆の浮いたバスターソードが、石ころだらけの丘に横たわっていた。
誇りまみれの柄を大切な物に触れる仕草で拾い上げる。巨大な一振りは、ずしりとその重みを掌に伝えた。
断崖の端まで、足を運んだ。この場所からは、ミッドガルが一望できる。
かつて世界の中心として栄華を誇った魔都は、二年前に起こった審判の日を境に巨大な瓦礫となった。
累々と連なる無残な廃墟が、灰色に垂れ込める空のフレームに小さく収まっている光景。それはあたかも、人間の驕りに下された天罰を具現化したかのようだった。
贖罪
クラウドは、形見である大剣を地面に突き立てた。それは友に捧げる祈りだった。
「お前の分まで生きよう。そう決めたんだけどな。」
瞼の裏に、親友の姿がよみがえる。
――トモダチ、だろ?
ザックスは、そう言って人懐っこい笑顔を見せた。
ヒッチハイクでミッドガルに向かった日、トラックの荷台から見えた空は気持ちよく晴れていた。
自分に無い何もかもを持っていた陽気な男。彼はその全てをあっさりと手放して、ライフストリームになってしまった。
銃弾を浴びて崩れ落ちる体を受け止めたのは、恋人の華奢な腕ではなく、不毛なる荒野の砂だった。
底抜けに明るい、どんなピンチも不敵に切り抜けて来たあの優秀なソルジャーには、あまりにも似つかわしくない死に様だったと、今でもそう思う。
大戦後は、友のためにもこの命を大切にしようと思った。生きることが、先に旅立った者への手向けだ。
いつかこの手で誰かを救えるかもしれない。慎ましくささやかな日常に戸惑いながらも、地に足の着いた暮らしというものを手探りで始めた矢先のことだった。
黙って家を出た自分を、ティファも子ども達も心配しているだろう。そして怒っているに違いない。再生されたティファの声は、明るく平静を装ってはいたけれど。
四人での生活は、楽しかったし不満などあるわけも無かった。うまくいかなくて途方にくれることもしばしばだったが、時間をかけて少しずつ進んでいけばいいと高をくくっていた。
今考えると、何て能天気な話だろう。星は、全てを見ていた。罪に汚れた自分を、決して許した訳ではなかったのだ。
脳裏に、端末から聞こえた優しい音色がリフレインする。みずみずしい艶を含んだアルトは、そのまま彼女の姿を思い起こさせた。絹糸のように滑らかに流れるロングヘア、星を散りばめて潤む鳶色の瞳。美しさも強さも、情熱も、弱さまで、ティファの全てが愛しかった。どうしようもないほど大切に思えた。
だから、独りになることを選んだ。
これで何もかも終わるのだと、安堵さえした。自分の生に永らえる価値があるのか、ずっと疑問に思っていたから。
平和を取り戻したかに見えるこの世界に、再びの危機が訪れようとしているのかもしれない。だがそれを知ったところで、何ほどのことができるだろうか。
結局、何も救い上げることが出来なかったこの手に。
故郷が炎に包まれた日も、親友が自分をかばって凶弾に倒れた日も、忘らるる都の祭壇で、美しい人の胸を正宗が刺し貫いた日も。
過去を振り返るたび、逃れようの無い罪に打ちのめされる。
そして何もかもを惜しみなく与えてくれるティファに対して、思い出に囚われたままの自分は、あまりに不実だ。
孤独を貫くことが最良の選択だと言い聞かせ、喉に石がつかえたような不快さを何度も飲み下す。認めまいとしても、それは確かに未練だった。
そして気がつけば、身を寄せた場所は、エアリスの教会だった。怖くて逃げ出したその足で、自分は結局のところ安らぐ場所を求めている。
自身の弱さ身勝手それ自体に、追い詰められている事実。改めて自嘲する他、今の彼に出来ることは無かった。
不意に左腕から痛みが走り、全身を打った。網膜にフラッシュバックする、自分を救ってくれた人々の優しい笑顔。大切な情景が、焔をまとった男の、禍々しくも美しい銀髪に塗りつぶされていく。
激痛に歯を食いしばりながら、彼はがくりと膝を突いた。友の剣にすがり、平衡を失った身体をかろうじて支える。どす黒い液体が、包帯で覆った傷口から溢れ出すのが、見ずとも分かった。
体中をめぐる負の思念が細胞という細胞を侵蝕し、痛覚という名の火で焼き尽くす。
お前には生きる資格が無いのだと、改めて星から宣告されている。そう感じた。
痛みに自由を奪われたまま、霞む意識の隅で、ふと考える。星に還ることが出来たなら、懐かしい二人に……ザックスとエアリスに、再会できるだろうか。
地に膝をつき、淡い金の前髪を垂れる様は、敬虔な巡礼者が捧げる祈りの姿にも見えた。けれども、痛みと悔恨によって塞がれてしまったクラウドの心に、微かな星の声は、未だ届かない。
生きて足掻け と。護るべきものの為に闘うことこそが、贖いだと。
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ズルズルズルズル(以下略)
暗っ!せっかくの1周年記念なのにいいトコ無いね、クラウド。(あくまで爽やかに)
久しぶりにDVD見たら、やっぱり良いと熱がぶり返し中。FF7ACプロローグの小説読んで、更にどっぷり嵌り中。
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(06.09.20UP Written by どれみ)
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