彼の物言いは、とても単純で分かりやすい。
 マリンに言わせれば、『クラウドのことそんなによく分かるのは、ティファぐらいのものよ』だそうだが。
 例えば『子ども達はまだ起きているか』と言えば、まだ起きていることを期待してのこと。だから、ただいまの挨拶もそこそこに尋ねたクラウドに、ティファは『残念だけど』と前置きすることになった。


la saison




「残念だけど、もう寝たわ。子どもが起きていていい時間じゃないもの」
「そうか。それじゃ明日だな」
 半ば予想していた返事にもっともらしく頷いたものの、彼の目元には落胆の色がありありと見て取れた。
 喜怒哀楽が素直に顔に出るのは、良い傾向だとティファは考えている。それは数奇な運命に翻弄されながらも闘うことで自分自身を勝ち得たこの青年が、穏やかな日常というものにようやく慣れてきた証でもあるからだ。
 繊細で複雑な、悪く言えば面倒くさい性格は相変わらずだし、嘘や隠し事の類が呆れるほどに下手なのは彼自身にとって微妙に不幸なことかもしれないが。

 テーブルの上に紙袋を置くと、クラウドは腰を下ろした。
 袋の表面に赤と緑のインクで印刷されたファーストフードのトレードマークは、エッジのみならず世界中でお馴染みのものだ。
「電話で言ってたおみやげって、それ?」
 傍らの椅子に腰を落ち着けながら、彼女は問いかけた。電話では確か珍しいものだと言っていたはず。それについさっき、クラウドは『見せたい』って。
 ティファは首を傾げた。いぶかしげな彼女の顔に気付き、彼は言い添えた。
「ああ、袋と中身は関係ない。何が入っているか、当ててみてくれ」
 頬杖をついたまま袋を見つめ、しばし考えてみる。が、急に言われても見当のつけようもなかったし、困って見上げた天井に答えが書いてあるはずもなかった。
「何かヒントをちょうだい」
「ミッドガルには無いものだ。でも秋になれば大抵どこでも拾えるな」
 そこまで言うと、彼は急に自信のなさそうな顔になった。
「それとも、こういうものは喜ばないかな」
「そんなこと聞かれても、中身が何だか分からないんだから答えようがないよ」
 たまらず彼女が吹き出し、クラウドは頭をかいた。
「降参。開けてもいい?」
「ああ」
 期待と不安がない交ぜになった視線を感じながら、ティファは紙袋を取り上げた。軽い。まるで何も入っていないかのようだったが、手で持った拍子に中身がかさりと音を立てた。
折り曲げられた袋の口を伸ばす。ジャンクフード特有の安っぽい油の匂いが僅かに漂った。


 覗くと、鮮やかな黄色と赤が目に飛び込んできた。自然が作り出す美しい造形に彼女は目を見張った。
 とりどりに色づいた葉がいっぱいに入っている。確かにそれは、命の源が枯れ植物を育めなくなったこの土地では決して見ることのできないものだった。
「綺麗…。きっとマリンやデンゼルも喜ぶと思うな」
 紅葉やプラタナスの黄葉に混じってドングリも入っている。それもひとつふたつではなく、結構な数だった。
 目を細めて見入るうち、ふとある事実に思い当たって尋ねてみる。
「クラウド、これあなたが拾ったの?」
「……?」
 なぜそんなことを尋ねるのかと物言いたげな青い瞳を前にして、彼女はこっそりと笑いを噛み殺した。彼の容姿はただでさえ目立つ。どこか線の細い優しげな顔立ち、それでいて触れたら切れてしまいそうな鋭さ。目を引く容姿と近寄りがたさを併せ持つこの青年が無心に落ち葉やドングリを拾っている姿は、さぞかし見ものだったに違いない。
「何か、可笑しかったか?」
 置いてきぼりを食らった子どものように不服げな表情に、更に笑いを誘われる。
 彼自身は周囲の視線にまるで無頓着だ。自分が何故注目されるのか気付いていない節すらある。
 笑いを収めると袋の口をもう一度丁寧に折り曲げ、ティファは顔を上げた。浮かべた微笑みは先ほどまでのからかいを含んだものと趣を異にしていた。
 何よりこの男は、子ども達や自分のためという名分で、秋の風物詩を拾うことを案外と楽しんで行ったに違いない。そう思うと胸に温かいものが満ちていくのを感じる。
「ううん、素敵なおみやげをありがとう。配達ご苦労様」
 嘘いつわりのない心からの笑顔に、クラウドもようやく安心したように笑った。
「クラウドのね、こういうおみやげを思いつくところが…」
 テーブルの向こうで、紅茶色の瞳が再び甘く笑んだ。
「大好きよ」
 思いがけない配達料を得て、彼は耳まで真っ赤になって俯いた。ただでさえ豊かでない言葉の泉が、ここにきて完全に枯渇してしまったようだった。
 どんな強大な敵にさえも一歩も引かず挑む彼の勇気と胆力は、悲しいかなこういう場面にはまるで発揮されなかった。
 気の利いた言葉ひとつ出てこないのが、逆に彼らしいといえばらしい。そのままうつむいて固まってしまうものだから、言った方までが気恥ずかしさに頬を染めることになった。
「え、えーと紙袋から出しておいたほうがいいわね。籠か何かがいいかなあ」
 立ち上がろうと腰を浮かしかけたティファは、電流に打たれたように動きを止めた。大きな掌が、テーブルに置いた自分の手を包むように握り締めていた。
「もう少し、話さないか」
「うん…」
 少し困ったような微笑みを向けられて、力の抜けた彼女の体はすとんと椅子に戻った。
 うるさいほどに響く胸の鼓動が彼に聞こえてしまうのではないかと、それだけが少し心配だった。
 引き止めた当の本人にさしたる話題があったわけでもないらしく、男っぽく引き締まった唇が開かれる気配はなかった。
 小さな部屋をしばし沈黙が支配した。互いの無言が作り出す静かな時間はむしろ心地良さを感じさせた。
 重なった手から感じる命の温度は、自分のものよりも少しだけ高い。
 
 ティファの始めた問わず語りに、クラウドは耳を傾けた。
「覚えてる?村の外れに大きなドングリの木があったのを」
 現存しているニブルヘイムではなく、二人の思い出の中にだけ存在する遠い故郷。秋になると大木の周りには子ども達が集まり、拾った数や大きさを競ったものだった。
 今日と同じ幸せを信じて疑いもしなかった無邪気な時代が懐かしい。
「秋になると、いっぱいドングリが落ちて…それを拾ってみんなでおままごとをしたっけ」
「ああ、一番大きなのを拾った奴がティファにあげるんだって、大騒ぎしてた」
「クラウドも拾った?」
 何気ない問いに、男は少しだけばつの悪そうな顔を向けた。それから気恥ずかしげに告白したのだった。
「………他の奴らがいない時に拾いに行くと、もう大きいのは残ってなかった。つまらないプライドにしがみついて、結局一度もティファにプレゼントできなかった。」
 そう言って彼は握っていた自分の手を離すと、現れた白い掌を上に向けてドングリをひとつ握らせた。
「遅くなってごめん、ティファ」
「ううんいいの、ちっとも遅くなんかないよ」
 美しい黒髪がふわりとなびいた。微笑みながら首を横に振ったティファに、クラウドが真っ青に輝く瞳を向けた。
「私には、あなただけよ。クラウド」
 二人の視線が柔らかく絡み合い、繋いだ温もりはより熱を帯びた。
「ティファ…」
 その先は聞こえなかったが、ティファには痛いほどに伝わっていた。
 言葉よりも雄弁に語るものがあることを。
 彼の強い眼差しを受け止めるたびに、守ってくれる大きな手を感じるたびに思い知らされる。

 互いの手を離さず二人で乗り越えよう。思い出だけでなく、これからの全てを共に分かち合える家族になろう。わたし達には、きっとそれができるから。
「クラウド…」


 互いの名を呼び合った後、二人の唇は言葉を語る役目を放棄した。
 フェンリルという名の風が、季節の便りを運んできた夜。






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ぎゃー!もう冬真っ盛りでしょうに!毎年外してる気がする。
しかも題名、訳分からん。あん・るいすとは関係ないです。(古すぎて分からんて!)
今年は紅葉が遅かったということでひとつお見逃しを〜!(逃)



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