客の姿が消えたセブンスへヴンの店内には、未だ酒と煙草と料理の匂いが入り混じって残り、漂っていた。

「看板、そろそろかけてこようかな。」
 店の後始末をてきぱきとこなしながら、ティファは呟いた。立ち働く足取りはいつにも増して軽やかだ。
 磨き上げられたカウンターの上。そこに置かれたプレートには、"臨時休業"の文字が光っている。
 先程ここへ運ばれてきたばかりの、大切な仲間からの贈り物だ。





EXTRA HOLIDAY







「明日は、どこへ出かける?」
 手を止めないまま問いかけたティファの声は、嬉しさに弾んでいた。格闘術で鍛えたしなやかな肢体の生む立ち居振る舞いが、この娘を更に美しく見せている。
 その笑顔は、今はただひとりだけのために特別な意味を持って向けられていた。
「…ああ。」
 クラウドは生返事を返したきり、その先を続けようとしない。半ばお決まりの反応を大して気に留める様子もなく、ティファは二杯目のグラスを目の前に置いた。からり、と涼しげな音とともに、氷がスポットの灯りを弾いて煌めいた。
 踵を返した彼女の黒髪がふわりと風になびき、残り香を彼の嗅覚に届ける。
 片方の手でカウンターに頬杖をついたまま、男はグラスに視線を落した。淡い金髪に縁取られた秀麗な横顔は、思案をしているというより、どこか困っているように見えた。


「デンゼルはね、久しぶりに遊園地行きたいって。」
「勘弁してくれ。乗り物は苦手なんだ。」
 今度は即座に反応が返った。淡いブルーの輝きを帯びた瞳には心底辟易しているのがありありと映っていて、目撃したティファはつい吹き出した。
「そういうと思った。だからデンゼルもマリンも他所にしようって相談してたわ。」
 端整な眉を難しげに寄せたままのクラウドを可笑しげに見やって、彼女が続ける。
「それにしてもおかしいわよね。バイクは平気な癖に。」
「自分で運転するなら、平気なんだ。」
 反論を試みる彼は口元を思わず覆っていた。乗り物酔いの経験を思い出すだけでも忌々しい。
「どこがいいかなあ。記念公園へお弁当持って行こうか。」
「任せるよ。」
 青年の短い返答は、知らない者が聞けば気のない返事だと憤慨すること間違いない。ぶっきらぼうで言葉足らずだと、彼も自覚はしているのだ。
 気恥ずかしさを押さえつけるには、多少の気力と時間的猶予を必要とするもの。
 だから、クラウドは一呼吸おいてからこう付け加えた。
「ティファがいいと思う場所なら…一緒なら、どこでも構わない。」
 振り向くティファの頬が、熟れた果実を思わせるほど赤く色づいている。
 大真面目な顔で律儀にもう一度頷く青年に、彼女は嬉しさのままこぼれんばかりの笑顔で応えた。
「私も、クラウドと一緒に行くならどこでもいいよ。」
 はにかんだように小さく口元を綻ばせた彼は、ちらりと店の奥に視線をやって気配を確かめた。親孝行者の子ども達は、夢の園を抜け出す様子はなさそうだ。
 そのまましばらく黙っていた彼は、ややあって口を開いた。

「ティファ。」
「何?」

 自分の名を呼ぶ響きの優しさに、ティファの心臓はことりと音を立てた。
 呼ばれるままカウンター越しに向かい合った彼女の目に、クラウドの真っ直ぐな眼差しが飛び込んできた。
 魔晄を浴びた証として恐れられる光も、それを持つ者の意志によって星の命そのものに輝きを変える。
 伸ばされた大きな掌が、薔薇色に染まった彼女の頬を挟み込む。触れる指先から、彼の持つ命の温もりが伝わって来る。
 青く美しい、そして甘やかな輝きを宿した瞳に誘われるように、ティファは瞼を閉じた。



 重ねた唇からは、ほのかにモルトウィスキーの香りがした。




-fin-



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うっわ。ティユウ以外のカプ話を初めて書きましたが、何かむちゃくちゃ照れました。
取り合えず萌えを吐き出してみたけど、書き出すとキャラを掘り下げたくなって泥沼状態な自分が一番恥ずかしいな(痛)。



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(05.09.22UP Written by どれみ)
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