通りと店とを繋ぐ外階段に腰掛けて、栗毛の少年はぼんやりと灰色の空を眺めていた。
 雨上がりの朝、エッジの空気には廃材と鉄サビの臭気がいつもより濃く混じっている。
 店のドアが開いた音に振り返ると、特徴のある金の髪が目に入った。




朝の風景 #1 -Cloudy wolf-



 出てきたクラウドは、眼下に新しい家族の姿を見つけて表情をわずかに緩めた。
 人並み以上どころか間違いなく良い部類の容姿をしているくせに、およそ愛想というものに欠けるこの青年も、家族や仲間の前ではさすがに無防備になる。
「デンゼル。起きていて、大丈夫なのか?」
「平気、今朝はちょっと気分がいいんだ。」
 名を呼ばれた少年は、前髪越しに額をちょっと押さえながら歯を見せる。恐ろしい病魔と闘い続ける彼の無邪気な顔つきを、彼は気遣わしげに見下ろした。
 つい最近まで続いた栄養不良と体を蝕む不治の病のせいで、幼い体は痛々しいほどに細く頼りなげに見える。

「また出掛けるのか?」
 階段を下りていく逞しい背中に、デンゼルは尋ねた。
 彼がいない間、家の中は少しだけ空虚になる。ティファやマリンの心尽くしによって居心地は変わらず良いはずなのに、パズルのピースが一片だけ足りないような、そんな違和感を覚えるのだ。
 それはティファの元気が少しだけ無くなるせいかもしれないし、何よりデンゼル自身がクラウドを頼りにし、もっと傍にいて欲しいと思っていることの現れでもあった。
 少年は時々考える。もしあの場所で彼に救われていなかったら、今頃自分は間違いなくこの世にいないだろう。
 一度は惜しくないと思った命だったけれど、今は死が怖い。
 「家族」を悲しませたくない。もっと生きて色々なことをしたい。この男からもっと色々なことを学びたい。
 だから苦しくとも星痕と闘う。小さな生命はそう決意を固めていた。

「仕事だ。」
 対する返事は、いつも通り素っ気なく、ごく短かった。
 別に寂しいわけじゃない、ましてや引きとめようというつもりなんかじゃない。でも、口数の少ないこの男ともう少しだけ話がしたい。
 その一心で少年はふらつく足を踏みしめ、そして立ち上がった。
「噂で聞いたんだ、街のすぐ近くにモンスターが出たんだって。ティファやマリンも心配してた。」

 バイクの傍まで追いすがった小さな気配に、クラウドは顔を上げた。どこか不安げな顔をしている子どもに、諭すように話しかける。
「七番街のほうだろう。近付かないようにさえしなければ大丈夫だ。」
 自分がいない間でも、ティファが守ってくれるから心配ない。そう続けようとした彼は、自分に注がれた少年のひた向きな視線に言葉を飲み込んだ。

 不安も希望も、決意も迷いも全てをない交ぜにした、混沌としていて、それでいて呆れるほど純粋な感情をそのままに映したブルーグリーンの瞳。

―――強くなりたい。
 大切なものを守る力をこの手へと望み、ソルジャーに憧れたかつての自分をそこに見たような気がした。

 イグニッションキーにかけた手を止め、クラウドは右手のグローブを外した。
 幼い少年の目に映った元ソルジャーの手指は、大剣を振るい勝利を掴むのにふさわしい大きさと逞しさを備えていた。
 彼は薬指にはめてあった紋章を抜き取り、デンゼルの手にそれを握らせた。
「これを預けておく。俺の留守は、お前が守ってくれ。」
 熱のためではなく頬の紅潮を感じながら、少年が大きく頷く。
 右手の中指にはめてみた指輪はもちろんサイズがぶかぶかで、手を下に向けたとたん転がり落ちるようにして外れた。
「ちょっとだけ、サイズが大きいや。」
 控え目過ぎる表現に子どもらしい背伸びを感じて、クラウドは我知らず結んだ口元をほころばせた。

「行ってくる。ティファとマリンを頼む。」
「ああ、クラウドも気をつけろよ。」
 愛車のエンジンに火を入れると、青年は少年を見据えて頷いた。






 獣の咆哮に似たエンジン音を残し、フェンリルはあっという間に小さくなってビルの陰に飲み込まれた。

 走り去る影を見送ってから、デンゼルは掌の中の指輪をもう一度握り締めた。






-fin-




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 この前日記に書いてたファミリーネタとは別物です。(苦笑)
デンゼルの指輪、クラウドが身につけていたものをもらったのだとしたら…という仮定で。
 あれ?そしたらティファとのペア物の片割れをもしかしてあげちゃうことになるのか…?(痛)
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(05.10.14UP Written by どれみ)
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