想い
for you  from TIYU_7THEME


 織物工房から聞こえてくる筬を繰る音が、どこかのんびりとした響きを伴って、島の時間をゆるりと紡ぐ。

 昼下がり、人々は眩しすぎる陽射しを避けて椰子の木陰や軒に作業の場を求める。
 今日も天上を白く輝かせ、惜しみなく地に光を注ぐ太陽の動きに合わせて動く素朴な生活は、昔から少しも変わらず繰り返されてきた営みだ。
 もっとも、子どもの心臓は独特の速さで時を刻むものらしく、それぞれの家の手伝いが終われば、沢へ水浴びに、また村の広場で歓声を上げ、そうかと思えば路傍の犬と戯れている。今日も日の恵みを一身に浴び、そこここへ集まり散って、少しもじっとせず遊ぶ。


「ただいま」
 帰ってきた娘の声に、母親はふと、いつもとは違う響きを感じた。それに、帰りが随分と早い。
 洗い物の手を止めて振り返る。
「お帰り。」
 俯き加減に入ってきた我が子に向かって、母親は優しく笑った。
「外は暑かったろう。」
 そう言いながら、冷やしたお茶を一杯、カップに注いで食卓へと置く。

「どうしたんだい?誰かとケンカでもしたのかい?」

 母親が水を向けると、日に焼けた少女の顔が、悔しさに歪んだ。
「だって、ラックがあたしのこと、猫とお揃いだって笑ったの。」
 大粒の涙が一粒、褐色の頬を伝って落ちた。
「ラックのおばあちゃんが飼ってる猫に、色違いの目をした子猫が生まれたって。あたしの目は猫と一緒だって。」
「ばかだねえ、この子は。」
 べそをかく娘の頭を、母親はぽんぽんと軽く叩いた。
「お前だって知ってるだろ?緑と青のオッドアイは太陽に祝福されている証なんだよ。」


「どれ、久しぶりにあの話をしてあげようかね。」
 エプロンへと頭を埋めた少女の髪を撫でながら、彼女は島に伝わる昔話を語り始める。
「むかーしむかし、長老のお爺さんのお爺さんの…そのまたお爺さんが子供だった頃の話だよ。」

 その昔、スピラにはシンという化け物が人々を苦しめていた時代があったんだそうだ。
 召喚士と呼ばれる偉い方々がシンを倒してくださったんだけど、シンは邪神の使いだから、倒すたびに甦ったんだそうだ。

 邪神もろともシンを倒して、スピラに永遠のナギ節を授けてくださったのが大召喚士様さ。
 大召喚士様は、オッドアイで、美しい姿をしていたそうだよ。それから大召喚士様をいつも守っていた強い強い戦士がいてね。その男は太陽の力を持っていて、剣とブリッツの達人だった。そして大召喚士様と力を合わせて戦ったんだ。
 夜明けの光が邪神を滅ぼしたとき、戦士は邪神に連れ去られて、消えてしまった。悲しんだ大召喚士様は異界に出向いて恋人を探して取り戻し、それから、めでたく二人はビサイドで仲良く幸せに暮らしたんだ。


「島の人間はみんな、太陽の戦士と大召喚士様の子孫だ。だからみんな明るくて、元気で、勇敢だ。なかでもオッドアイは、大召喚士様の血を濃く受け継いでるんだから、誇らしいことなんだよ。」

 いつしか母親の膝から顔を上げ、聞き入っていた少女は、小さく鼻をすすり上げると、少しはにかんだように笑った。


 そのとき、誰かが窓辺をコツコツと叩く音がした。母と子が同時に目をやると、真っ黒に日焼けした手が伸びて、何かを窓枠の上に置くところだった。
「誰だい?」
 女主人の問いに、ぴょこんと顔を覗かせたのは、ラック少年だった。ばつの悪そうな顔をして、口をへの字に結んでいる。
 彼は、しばらく口の中でもぞもぞ言っていたが、やおら怒鳴った。
「さ、さっきは、ごめんな!」
 真っ赤になりながら、それだけを言ってしまうと、くるっと振り向き、逃げるように駆け出した。
 熱帯樹の板材で組まれた簡素な窓枠には、茶色の紙包みが残されている。娘が広げてみると、中から綺麗な巻貝の貝殻が転がり出た。

 開け放された窓から身を乗り出した少女のオッドアイに、走り去る少年の後姿が映った。 ほのかに赤みを加えた午後の陽が少年を撫で、金の髪を眩しく光らせていた。




 想いは受け継がれ、交わり、そして育ち合う。
 小さな人間の営みは、大地に雄雄しく根を下ろし、ひとつながりの明日へと続く。











[FIN]
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時代が進んで、ティーダとユウナが歴史上の人物になった頃?(笑)
ごく普通の人間として二人で幸せな一生を終えて欲しいな、と。
でも天寿を全うした後は、ちゃっかりと縁結びの神様とかに祭られてそうかも。
回を追うごとに、どんどん微妙さを増しておりますティユウ7題ですが、指笛と素敵だねは、ちゃんと書…けるとよいなあ。(願望かい)

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