学園天国!
挿絵 るうや多加史様



 中間テストと衣替えを相次いで終えた校内は、落ち着きの色合いを深めているかに見えた。
 しかし、10月は何といっても体育祭。クラス対抗で行われる決戦に向けて、生徒達の盛り上がりが加速度的に高まりつつある。
 
 放課後の教室で、ユウナは今日の日誌を書いていた。鉛筆を走らせる彼女の耳に、校庭で円陣を組んでいるらしい、大きな声が届く。応援団が午後練を開始したようだ。チームが結成されたばかりで、どことなくぎこちない様子のかけ声も、きっとすぐにまとまるのだろう。

 書き上げた日誌を閉じて立ち上がったユウナの耳に、今度は廊下のほうからバタバタと走る音が聞こえてきた。元気というよりは騒々しい足音の持ち主はかなりの俊足らしく、あっという間に近づき、そして彼女のいる教室に飛び込んできた。
「あ、ちょうどいいところに!」
 息せき切って入ってきたのは、ティーダだった。
 教室には、他に誰もいない。つまり、二人きり。ユウナの胸がとくんと打った。
 それだけでも動揺を隠せないというのに、彼は更に思いがけない行動に出た。
「ユウナ、かくまって!」
 叫ぶやいなや、驚く彼女に構わず背後に回りこみ、床にしゃがんだのだ。
「え えええ〜?」
 状況が全くつかめずにオロオロする彼女の後ろで、ティーダは手足を縮め、息を殺したままぼやいた。
「シーモア、うっせーんだよなぁ…!ってユウナユウナ、かたい。自然に、しぜーんに!」
「できないよ〜!」
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───そんな綺麗な青い目でうるうる見上げられても、無理!

 突然ふっかけられた難題に、彼女はため息混じりの悲鳴で返した。だいたい、隠し事は大の苦手だ。それ以前に、彼が回り込んだ拍子に握った手が、今もずっと繋がれたままでいるという事実に、ユウナの胸は更にとくとくと打っていて苦しいほどだったのだ。
 それでもユウナは、明らかに挙動不審な動作ながら、なんとか教卓の場所まで移動した。しゃがんだまま摺り足でついて来たティーダを陰に隠したところで、件の教師が後ろのドアから顔を出した。
「ああ、ユウナ君。ティーダ君を見ませんでしたか?」
「い、いえ」
 緊張のあまり、声がひっくり返りそうになる。首筋に嫌な汗が伝うのを感じながら、ユウナは答えた。
 渾身の演技に、シーモアは意味深な笑顔を向けた。
 2年生の古文を担当するこの優男は、理知的な美声と分かりやすい授業でそこそこの人気を博している。むろん、一部(主に男子)から前髪が気色悪いだとか、テストの問題に陰険さが滲み出ているだとか、授業する声に混じって催眠音波が出ているに違いないだとか、散々な評価を陰で受けていたりもするのは、学園もののお約束事項である。
「そうですか。では、もしもティーダ君に会ったら伝えてください。例年通り、赤点の者は追試に合格するまで体育祭の自主練は禁止です、と」
 あくまで穏やかな笑みを絶やさないまま言い終えて、シーモアは気障なしぐさで踵を返した。
 悠然と去っていく先生の後姿を見送りながら、彼女はようやく事態を理解した。
 スポーツ万能でクラスのムードメーカーを担うティーダだが、こと学習面になると、いまひとつ弱い。どうやら2学期の中間において、古文のテストは大変残念な結果に終わったようだ。

「ちぇーー、あれ絶対ここにいるって分かって言ってるよな。性格悪ぃ!!」
 頃合を見計らって物陰から這い出てきたティーダは、行儀悪く教卓に腰掛けた。
「追試とか補習とか、マジふざけんな」
 更にぶーたれたティーダだったが、振り返ったユウナに見つめられると、ぎくりとした様子で口をつぐんだ。
「でも、赤点のままじゃ困るでしょ?」
 もっともな指摘に、彼はなんともバツの悪そうな顔で首をすくめた。
 二人の通う付属高校は併設大学への進路が約束されているものの、さすがに落第点のままでは許されるはずもない。
「ユウナの言うとおりなんだけど、でもシーモアが嫌いなの抜きにしても、やっぱり苦手なんだよな…。あんなめんどくさい言葉で書き残した昔の人を恨みたくなる」
 ティーダは成績不振の言い訳をしながら、上履きの靴紐を弄った。縮こまってうなだれている様子は、迷子の子犬みたいだ。本人にしたら切実なのだろうが、微苦笑を誘われずにいられない。
 何より波長の合わない教師と当たる不運は、あながち小さくない。気の毒半分、残りの半分は不思議な使命感にかられて、言葉が彼女の口をついて出た。
「よかったら、教えてあげようか。わたし、古文はちょっと自信があるんだ」
 すると、少年のしおたれた表情がたちまち輝きを取り戻した。俊敏な動作で教卓から飛び降り、大仰なしぐさで両手を合わせた。
「ほんと?お願いします!神様仏様ユウナ様!」
 大喜びでお辞儀した彼と、目線が間近に揃う。無邪気すぎる接近に、一瞬呼吸を忘れた。
 いつも不意打ちでやって来る、胸を甘く締め付けるこの感情。
 開けっ広げな笑顔の眩しさが、彼女の瞳を強く捉えて離さない。

 頬に帯びた熱を悟られないよう、ユウナは慌てて厳しい顔を作った。
「その代わり、ビシバシいくからね。わたし日誌を職員室に置いてくるから、そのあと一緒に図書館行こう」
「え、今から勉強?明日からじゃ、ダメ?」
「却下します」
 再び情けない顔つきになった彼の、哀れっぽい懇願に、ユウナは即行で否を突きつけた。少し可哀想な気もするけれど、何より彼のためだ。
 そして半ば無意識だったけれども、本当は彼が追試をクリアすることは、彼女にとっても必須課題なのだ。
 体育祭で活躍する彼を応援したい。そのためには練習を頑張ってもらいたい。それに万一単位を落として留年にでもなったら、目も当てられない。

───だって、今もこの先も、キミと一緒にいたいから。

 現在と未来の両方にかかる小さな望みを、胸の奥に大切にしまいながら、ユウナはさしあたっての目標を口にした。
「F組には負けたくないもん。だから、早く追試に受からなくちゃ、ね?」
 少女が、シーモアの担任するクラスを名指しすると、今しがた彼女の生徒になった少年も、胸の前で拳を作って、大真面目な顔で頷いた。
「せっかくユウナ先生が教えてくれるんだから、死ぬ気で頑張るッス。………多分」
 余計な一言がくっつくあたり頼もしさに欠けるが、彼の何気ない一言が嬉しくて、素直に微笑がこぼれた。
「うん、その調子で一緒に頑張ろう」
 頷いて白い歯を見せたティーダの笑顔が、秋の日差しのように彼女の胸を温めた。
 
 教室を出た二人は、仲良く肩を並べ、足取りも軽く決戦への第一歩を踏み出した。



[FIN]
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とにかく、るうやさんのイラストってば萌える!!これに尽きる!!
制服かわいい!!初々しいユウナのブレザー&ニーハイに、すいません鼻血出そう…ちゃっかり隠れるティーダもかっこ可愛いなぁ、教室の中も、掲示物から机椅子から、すごい描き込みですよ凄過ぎる。ティーダのベルトの先とかバッグのロゴとか、机の筆箱とか、見れば見るほどニヤニヤできるポイントの宝庫です。
このページのイラストから、一回り大きな画像へリンク貼ってあるので、ぜひ細部までご鑑賞ください^^

普段、パラレルは自分ではあまり妄想しないほうなんですが、今回、るうやさんのお宅の日記絵(いただいたイラストの元絵)に一目惚れして、学パラガーッと書いて先様に押し付けるという暴挙に出ました。
だって、ストーリー性たっぷりで生き生きしてて、ほんとに学園生活が見えてくるような素敵なラフだったもので。←言い訳ッスね
書き上げて思った。シーモアやっぱりキューピッドなんだ(笑)
差し上げたブツを気に入ってくださったるうやさんから、「ラフを清書するから、コラボにしましょう」と神な申し出をいただけたので、今回このような形でお目見えできました!
るうやさん、素敵なイラストをあどうもありがとうございました!

るうや多加史様の素敵HPはこちらから。


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